アメリカ、カリフォルニアのインディーアーティストGinger Rootが”残酷な天使のテーゼ”をカバーしています。正気なところ、僕はエヴァンゲリオンのアニメも映画も観たことがないです。そして”残酷な天使のテーゼ”といえば、会社の人や友達とカラオケに行けば、だいたいみんな知っていて歌えば「この曲何?知らないんだけど・・・」みたいな空気感を避けられる曲といったイメージしかありませんでした。
あけっぴろげに言うと全く接点も興味もないエヴァンゲリオンと”残酷な天使のテーゼ”ですが、ドラム、ギター、ベースなどの楽器はもちろん、アートワークからMVのディレクションまで全て自分でこなす”DIYの鬼”Ginger Rootがカバーするなら、と思い聴いてみました。
Ginger Rootのカバーソングから聞いてみると、跳ねるようなベースと、コンガのようなパーカッションが気持ちいい。なるほどファンクやソウルがベースにあるGinger Rootらしいアレンジでカッコよく仕上がってるな、といった印象でした。でも高橋洋子さんが歌う原曲に向き合ったことがなかったので改めて聴きなおしてみると、原曲でもベースもシンプルでありながらサビのベースは跳ねていて、パーカッションも鳴っていました。メロディーや派手なシンセが前に出てくるためリズムセクションまで気にすることがなかったけれど、レビューを書くぐらいの集中力で原曲に向き合ってみると、やたらとフレッシュに響きました。
かと言ってGinger Rootが原曲を忠実に再現した音楽に終わっているわけではありません。ベース、ドラム、パーカッション、そしていくつかのシンセサイザーのミニマルな構成でローファイミュージックとしてカバーしています。カセットをプレイヤーで再生する「ガシャ」という音から曲は始まりますし、スーパーファミコンのゲームBGMみたいなローファイなサウンドプロダクションとシンセのアレンジでGinger Rootらしさがググッと強化されていますね。
A Cruel Angel’s Thesis(残酷な天使のテーゼの英題ってこう書くんですね)を聴いて思ったことは、Ginger Rootの”フォーマット力”はやっぱりすごいなということです。どんな曲をカバーしてもちゃんとGinger Rootになるんですよね。彼は”Toaster Music”というカバーソングプロジェクトに取り組んでいて、多種多様なカバーソングをリリースしています。(秋元薫のDress Downのカバーが最高に好きです)
このプロジェクトの中で特にシンセサイザーのサウンドには統一感あります。意図的かどうかはわかりませんし、数としても少なくないカバーソングを短いスパンでリリースするためにサウンドのセレクトを絞っているのかもしれません。
Ginger Rootが “Toaster Music”でカバーソングを頻繁にリリースする様子を見ていて、村上春樹を思い出しました。小説を書いていない期間は翻訳に取り組む彼のスタイルは、Ginger Root自身の楽曲制作に取り組む以外の時間をカバーソングに費やして彼のクリエイティビティを刺激する何かを見つけようとしているようにも思えます。きっと単純に音楽が好きだからやっているのだろうけど。
まさかの残酷な天使のテーゼのカバーですが、ローファイなインディーロックの入れ物に移し替えると身近に感じられるし、日本のサブカルチャーに立脚していてエヴァンゲリオンの強い存在感がいい感じに中和されて聴きやすく。ぜひ聞いてみてね。