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【レビュー / Review】mei ehara “Ampersands”

新型コロナウイルスの感染が拡大し、緊急事態宣言下の2020年5月にリリースされたmei eharaのセカンドアルバム『Ampersands』。”&”を意味する”Ampersands”と名付けられたこの作品は、他者とのフィジカルなつながりがパンデミックによって分断された状況でも、友達や家族、恋人などの身近な他人とのコネクションは変化しながら続いてきたんだと振り返るきっかけを与えてくれる。

M1”昼間から夜”では周りにいる友人たちの中にいる安心感を表現しているようだし、M2”歌の中で”は自分の元を去っていってしまった人との繋がりの残像に対する葛藤を歌った曲に思える。前作に比べて他人の存在を感じさせる歌詞になっていると感じるが、本人も『Ampersands』では違ったスタンスで制作に臨んでいたと語る。コロナ禍間もないころは何か異常な状態で何か起こっても「まぁこんな状況だし」と自分を落ち着かせていることもあったかもしれない。でも生活は続いていくし、他人との関係性も地続き。

人間関係に色々な変化が起きて、年齢もあるので当然の変化かもしれないと思いつつ、精神的には辛いこともありました。ファーストアルバムを出した後、角張さんから「meiちゃんの曲は一人称が多くて他人の存在を感じないから、誰かを巻き込んだ歌も作ってみたらどう?」と言われて。その言葉が印象に残っていたこともあり、今までとは異なって、ひとりぼっちで日記的な曲とは違った曲が自然とできました。

Quoted from : https://kakubarhythm.com/special/ampersands/

一方で葛藤を押し殺すように平静に歌いながらも、揺れる心象が滲み出てくる音のほんの少しだけ不安定なバランスがこのアルバムの魅力だ。M4”どちらにピントを”のふらつくようにうねり歌にまとわつくようなギターは象徴的だし「機会に頼ってきた 何かに頼ってきた」部分にかかるディレイにも整いすぎたバランスをほんの少し崩して人間らしさを与えようとしているようにも思える。アルバムの最後に収録されたM10″鉄の抜け殻”にはあえてエア撮りされたようなノイズが入っていて、まるで雑踏の中に消えていくような印象を与えている。余韻を残しながら去っていくような感覚が残るが、それはAmpersands = “続いていくこと”を示唆しているのだと思う。

レゲエやボサノバ、時にR&B的なニュアンスすら感じさせる多様な音楽からのインスピレーションで楽曲の魅力がグッと増しているし、テーマがあるアルバムの中で淡々と歌っているようで奥に隠れた感情と、人間関係に起こった変化をグッと堪えて人生を進める芯の強さが心を打つアルバムである。