ミュージシャンが成功を夢見てやってくる挑戦の舞台、東京。しかしなぜ多種多様な音楽的バックグラウンドを持ったミュージシャンが、揃いも揃って東京を目指すのか。それは、音楽をボーダーレスに楽しむリスナー群が、あらゆるアーティストを受け止める音楽的なセーフティーネットを張り巡らせているからだ。
東京を中心とする首都圏は、世界でも稀に見る巨大な経済の営みを作り出す。人が集まり、経済が発展する場所には娯楽が求められる。もちろん、音楽も例外ではない。無数のライブハウスのおかげで音楽は身近な存在であり、レコード屋の数では都市別で見ると世界で一番と言われる東京。様々なバックグラウンドを持って上京する人が、自然と音楽に興味を持ち、楽しむ環境が整っている町だ。
巨大都市である東京には、多様性に裏付けられた音楽的セーフティーネットが張り巡らされているように思える。ロック、パンク、ヒップポップ、ダンスミュージックなど、どんなアングルから切り取っても東京にはシーンが存在しているからだ。例えばWombに行けばダンスミュージックで踊り明かせるし、テクノが聞きたいならContact。ブレイク寸前のバンドが新代田Feverを観客で一杯にするだろうし、キャパを求められるビッグバンドなら豊洲PITや武道館も使えるだろう。
つまり東京には、それぞれのアングルで切り取った多様な音楽に熱狂するファンが確実に存在するのだ。「地元の高校に通っていた時は身の回りにレディオヘッドが好きな人なんていなかったのに、東京に出てきたらたくさん出会えた」というようなエピソードは、地方出身者の音楽ファンなら感じたことがあるはず。地方ではマイノリティーになりがちな音楽が、東京では熱狂的なファンに掬われることが頻繁にある。
海外からやってくるアーティストが東京をライブ会場のファーストチョイスとしていることは、細部化されたジャンルがある程度のボリュームを持っていることを証明している。コロナ禍でJamie XXが東京でサプライズライブを行い超満員になったというが、はたして日本いおいて、東京以外でその熱狂は生まれただろうか?クラブミュージック、テクノ、The XXの濃いファンが東京に集まってたことに加えて、彼らが情報に拾い、急な発表にも関わらずフットワーク軽くライブに足を運んだからこそ成立したライブだと私は思う。東京に音楽の情報と熱が自然と伝播する動脈がランダムに走っている左証だ。ネット社会だからどこにいてもその情報は等しく伝わるはずだが、地方はその情報をキャッチしようとする熱が東京と比べて低いということなのかもしれない。
コロナ禍において、ミュージシャンとリスナーの関係性は、私たちがこれまで感じてきたよりもより深く、強く繋がっていることを痛恨させられる。ライブハウスに集まり生の音が作り出す異様な空間に熱狂することもできないし、観客が不在の配信ライブにはどこか物足りなさを感じる。ミュージシャンの営みを完結させる最後のピースはリスナーとも言えるはずだ。
ミュージシャンは、受け止められるファンがいる場所として東京を目的地に選ぶ。ビリー・アイリッシュだって、幾何学模様だって、Official髭男dism、Chance The Rapperも、Tame Impala、はたまた名の知れないアンダーグラウンドのアーティストだって、全てが受け止められる懐の深さ。だからこそ、ミュージシャンは思いっきり自分の作品を東京に投げ込める。リアクションを投げ返すファンの存在が、ミュージシャンを東京に引き寄せる。失敗するリスクもあるかもしれないが、飛び込んだ先に受け止めてくれる音楽ファンの存在がアーティストに安心と希望を持たせる場所なのだ。