最近外部メディアの連載を企画を練るため、リサーチをかねて旧ソ連の音楽を聴き漁っている。ロシアのキリル文字は読めないし、情報が豊富とは言えない旧ソ連の音楽。手当たり次第にディグっている時に出会ったのがテクノバンドZodiac。本当はラトビア出身のバンドだというが、その事実が明らかになるのはソ連崩壊後だったよう。
当時冷戦下で文化的交流も冷え切っていたようだけど、ソ連の外国向け放送でプッシュされた結果西洋諸国や日本でもその名を知られることになった。音楽としてはいわゆるテクノで、ソ連のYMOと呼ばれていたようだ。基本的にインストで、多様な音色で変幻自在なメロディーを繰り出す様子は確かにYMOを思わせる。また、ギターやベースなどの生音が入り込むことで、YMOよりも有機的な印象を持たせる。Zodiacはラトビアの音楽大学で結成された、おそらく音楽エリートたちが作る音楽だったと思うとYMOとの共通点は案外多そうな気もする。
冷戦下に生きていない僕は当時の文化交流を知り得ない。でも、ZodiacとYMOの音楽を聴き比べていると「分断された西側と東側で、インスピレーションは違ったとしても、互いに呼応する音楽が生まれていたのかもしれない」と思わせる。音楽として心地いい、クールだと思わせる要素っていうのは時代とか国を超えるのだと思わされた。
2020年に旧ソ連の音楽を聴いて感動するとは思えなかった。もしかすると経年劣化しない堅牢度の高い音楽を作る努力をした音楽だけが語り継がれているだけなのかもしれないけれど。とは言え時間の洗礼を受けた音楽に宿る魅力には、得体の知れない魅力がある。Zodiacの音楽をせこせこYouTubeで掘り返して、僕らが経験し得ない時代に生まれた音楽にだって感動できる。音楽の革新性はいつも新しく作られる音楽に感じるとも限らないし、長い時間を費やしてたくさんのリスナーの耳を通過することで精錬された音楽から見つかることもあるのかも知れない。