アメリカ・ニュージャージー州をベースに活動するシンガーソングライターであるLeslie Bear(レスリー・ベア)のプロジェクトであるLong Beard(ロング・ベアード)が昨年9月に“Means To Me”をリリースした。
“Means To Me“は、期待の次世代SSWとして注目を浴びるLong Beardをインディーロック・ポップファンにその名を知らしめることとなったアルバムだ。シンプルな楽器構成や、透き通る歌声、そしてドリームポップとしてのサウンドメイキングがリスナーの心を打つ作品となっている。
2010年代後半からJay SomやSoccer Mommy、Snail Mail、Clairo、Japanese Breakfastなど、その活躍が著しいSSWが数多く現れている。(男性と女性だと声の使い方が異なると思う。あえて細かく音楽を区切るために女性SSWと表現する)。また彼女達はそれぞれに特徴が際立ったサウンドやバックグラウンドを持ち合わせていると僕は思う。もちろんLong Beardも例外ではない。
彼女は1stアルバムの“Sleepwalker”を2015年にリリースすると、ドリームポップ、シューゲイザーなどの影響を感じる浮遊感が魅力的なサウンドで注目を集めた。しかしLeslieは自身が大学で専攻していたコンピューターサイエンスの道に進むことを決心し、正社員として企業に就職をした。その後、音楽の世界から身を引いて、楽曲の制作やライブを行わなくなってしまった。紆余曲折あり、ミュージシャンとしての活動に熱意を取り戻し2019年に“Means To Me”をリリースした。
Long Beardが他のSSWと比べて特徴的なことは、サウンドメイキングだけにとどまらず、内省的な歌詞をその世界観を隙なく作り上げる浮遊感のあるサウンドだ。
当ブログでは“Means To Me“がリリースされた直後にレビュー記事を書いたが、この作品のことをより深く理解したい、そして彼女のインスピレーションや音楽のルーツを知りたいと思いメールインタビューを申し込んだ。
Long Beardの名前の由来や、ドリーミーでありながらどこか寂しさを感じるアルバム“Means To Me”が作られた背景、アルバムの中で歌われる「故郷」の存在、そして彼女が作曲に取り組むきっかけやルーツをLong Beardは丁寧に語ってくれた。
私が幾度となく感じてきた孤独や、一人で音楽を作ることが一番落ち着くということが投映されているのかもしれない。
— あなたは“Long Beard”という名義で活動されていますね。この名前の由来を教えていただけますか?
Long Beard : 作曲を始めて、通っていた大学がある街の地下にあるライブハウスで演奏し始めた頃にこの名前を思いついたの。魔法使いのキャラクターの名前で、私の曲の中でストーリーテラーとしての役割を担っているわ。
—去年セカンドアルバムである“Means To Me”がリリースされましたね。このアルバムに収録されている曲から、なぜタイトルに“Means To Me”を選んだのでしょうか。
Long Beard : このアルバムの名前を決めるのは難しかったけれど、少し時間をかけて考えたあとに“Means To Me”をアルバム名にすることに決めたの。“Means To Me”はアルバム収録曲の中で一番最初に書いた曲で、このアルバムが私の人生のなかで追い求めていきたい大切なことの意味をベストな形で表していると思ったわ。
— あなたの曲を聞いていると、自分が夢の中でたった一人で自分に向き合う孤独な人間だと思えます。私がLong Beardの曲が好きなのはその雰囲気なのですが、ドリーミーでありながらどこか寂しさを感じさせる“Means To Me”のサウンドと歌詞を書く上で、どんなインスピレーションを受けましたか?
Long Beard : ありがとう!私は常にドリーミーなサウンドに夢中だったし、そんなサウンドを作ることが自分にとってもっとも自然だと感じてきた。もしかすると、それは私がどう感じたいかということを反映しているのかもしれない。私が幾度となく感じてきた孤独や、一人で音楽を作ることが一番落ち着くということが投映されていると思うわ。
「精神的に安定している」ということを「故郷」という概念を表現しているの。
—”Means To Me”では「故郷」という概念が、実際の意味合いとしても、メタファーとしても描かれていると思います。「故郷」という言葉を描いた背景はどのようなものなのでしょうか。
Long Beard : このアルバムを書いていたころ、さまざまな一軒家やアパートを引っ越してまわり、個人的な人間関係や友人との関わりや、仕事を変えたりして、たくさんの人生における変化の中をくぐり抜けてきたの。たぶんその経験があったから私は「安定している」という感覚を求めていたと思うし、そうあるべき安定という考え方が欲しかったと思う。「精神的に安定している」ということを「故郷」という概念を表現しているの。
—”Means To Me”の制作中に聴いていた音楽について教えていただけますか?
Long Beard : たくさんの種類の音楽を聴いていて、ほとんどは私が作る音楽とは異なるタイプだった。でもよく覚えているのはThe Blue Nileの“Hats”やTalk Talkの“Laughing Stock”のプロダクションは本当に好きだったわ。この2枚のアルバムを聴くと、たぶん不安な気持ちのなかであっても安心できるみたいな感覚を覚えるの。
—あなたがどのように作曲に興味を持ち始めたのか、その音楽のルーツに興味があります。子供の頃や10代の頃はどんな音楽を聴いてきたんですか?
Long Beard : 10代の頃はエモが好きで、そのあとポストパンクやフォーク、インディー、アンビエントの方面を掘っていったわ。もちろんドリームポップやシューゲイザーも好きで、私が作る音楽の質感に影響を与えてきたのだと思う。
たくさん犠牲にしなければならないことがある難しいキャリアであるものの、ミュージシャンとしての活動を追求するべきだと思えたわ。
—Japanese BreakfastのMichelle Zauner(ミシェル・ザウナー)があなたをベーシストしてバンドに招き、Slow Diveとツアーをまわったという話を聴きました。その経験か得たことはどういったことでしょう?また、その後の活動に影響を与えたことはありますか?
Long Beard : そう、私にとって本当に素晴らしいツアーだったわ、絶対に忘れられない!当時はLong Beardとして演奏しなくなっていて、就職して正社員として働いていたの。だからSlow Diveのような素晴らしいバンドと共に演奏できるなんて私にとって本当にインスピレーションになったし、幸せな気持ちになれた。この経験のおかげで私がどれだけミュージシャンとして活動することに情熱を注いでいたか実感することができたし、たくさん犠牲にしなければならないことがある難しいキャリアであるけれど、ミュージシャンとしての活動を追求するべきだと思えたわ。
— 最近のお気に入りの音楽は何でしょうか?
Long Beard : 最近はUnwoundの“Repetition”とSoccer Mommyの新しいアルバム(Color Theory)をよく聴いているわ。
—Anna Burch(アナ・バーチ)とツアーをまわる予定ですが、彼女があなたをツアーに招いたのですか?ツアーに対しての意気込みを教えてください。
*この質問を投げかけた時にはまだ新型コロナウイルスがアメリカでは発生していない頃でした。
Long Beard : Annaとのツアーは本当に楽しみだったんだけど、残念なことにCOVID-19の影響でキャンセルせざるを得なくなったの。夏頃のどこかでツアーにまわれればと思っているけれど、今のところいつになるかはわからないわ。
プレイリストもぜひ聴いてみてほしい
新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるっているが、Long Beardもその影響でツアーをキャンセルせざるを得なくなってしまった。事態が終息し、ツアーが再開できるようぜひ彼女の音楽を聴くことでサポートしてほしい。また、いつか日本に来日してほしいと心から思う。
本記事で登場するミュージシャンをプレイリストにまとめた。ぜひ聴いてみてほしい。