オーストラリアの実力派SSWのPaddy Mann(パディ・マン)のソロプロジェクトであるGrand Salvo(グランド・サルヴォ)が10月8日の京都でのライブを皮切りにジャパンツアーを実施する。
詩的で壮大な世界観を持った映画を見てるようなコンセプチュアルな音楽が魅力であり、昨年リリースしたアルバム”Sea Glass”のリリースを記念した来日ツアーを今回行う。以前にはポスト・クラシカルと評されるベルリンを拠点に活動するNils Frahm(ニルス・フラーム)をプロデューサーに迎えた作品“Slay Me In My Sleep”をリリースしたり、2016年の来日ではブレイク前の折坂悠太とも共演を果たしている実力派のアーティストだ。
最新作“Sea Glass”は過ぎ去ってしまった時間や喪失、死などのテーマが軸。日本の琴や非西洋的な民族楽器などを積極的に取り入れ、どのジャンルにも属さない奥行きのある世界観に浸れる素晴らしいアルバムだ。映画のサウンドトラックにそのまま取り入れても機能しそうなストーリーを含んだ作品を作り上げたGrand Salvoにメールを通じて、彼のインスピレーションや作品の作り上げ方、お気に入りの日本のアーティストなどをインタビューした。
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多くの場合、アルバムを作るときは、ある一つのテーマや物語をについて追求するスタイルで製作に取り組むことが多いね
– まずはじめにあなたの音楽について教えてください。
Grand Salvo 「主に自分自身のために曲を書いているのだけど、たまにアレンジや作曲にも取り組んだりしているよ。曲を書く場合はボーカルやギターから構成を作り始め、その他のレイヤーを重ねてアレンジを進めていくという手順で進めることが多い。アルバムを作るときは、ある一つのテーマや物語をについて追求するスタイルで製作に取り組むことが多いね。」
– あなたはGrand Salvoというアーティスト名で活動をされていますね。名前の由来について教えていただけますか?
Grand Salvo 「確か1999年から使っている名前でとても古いものだよ。いつも名前のことを考えるとき、僕自身とその名前自体がそれぞれとても遠く離れ離れになってしまったなぁと考えてしまうんだ。ヤドカリの貝殻や蛇の皮膚のようにあまりに長く共にすると居心地が悪くなってしまうようなものさ。元々は、僕自身の繊細で物静かなスタイルと対照的なものとして考えていた。Grand Salvoは「大きな音」という意味みたいなものだから。それぞれの単語が並んでいる字面が良く見えたのを覚えているよ。」
僕は音楽を聞く人に、もしその「優しさ」が共鳴する時にだけ感じ取ってほしいと思っている。
– 最新アルバム “Sea Glass”では、日本の琴やその他の非西洋的な楽器を取り入れ、より詩的でコンセプトに深みを与える要素になっているように思えます。どのようなきっかけで琴などの楽器を取りれられたのでしょうか?
Grand Salvo 「実は”Sea Glass”では音色として以外に楽器に対してのアプローチは取らず、純粋なそれぞれの楽器の音色をそのまま使おうと考えていた。でも、レコーディングが進むにつれて、通常僕がやるように自分自身で全てのパートを作り上げるよりも、それぞれのパートがもっと作曲に関わる方がいいのかもしれないと考え始めたんだ。この考えのおかげでレコーディングはいつもとかなり違ったものとなったよ。あるときは、曲の中のあるセクションが完璧に出来上がって、他のパートがその完璧な部分を強調するために少し変更を余儀無くされることもあった。また、ごくごく小さなセクションがとても良く仕上がり、うまく編集して曲の中に入れ込むことが必要になったり。最終的には莫大な編集プロセスが発生して、とても骨が折れる作業ではあったんだけど、プレイヤーの本来持ちうる即興性を捉えることができたよ。」
– あなたの映画的で優しいサウンドに心を打たれたのですが、音楽を作る上でどのようなインスピレーションを得ているのでしょうか?
Grand Salvo 「そうだな、実際に本当にたくさんのサウンドトラックを聞くようにしているし、アルバムの中でそれらと近いまとまりのある音楽を作ろうとしている。僕のお気に入りの映画には必ずある特定の雰囲気を感じることができるし、僕自身もいつもそのような雰囲気を自分の作品の中に感じるように、再現できるように取り組んでいるよ。僕の好きなお気に入りのサウンドトラックは、時に映画の”ため”に作られたものだとしても一貫してダイナミックな作品であることが多い。だから、映画と切り離したとしても問題なく作品として成立しているし、時にはサウンドトラック以上のものとなりうるんだ。君が感じた音楽の中にある「優しさ」は、活動を始めた当初から継続して作り続けてきた考え方なんだ。僕は音楽を聞く人にもしその「優しさ」が共鳴する時にだけ感じ取ってほしいと思っている。「優しさ」を僕が押し付ける形ではなくって、聴いてくれる人が自然と受け入れてくれるようにするためにね。また、様々なパターンをリピートさせ、重ねていく手法に興味を持ち始めたよ。元々はか弱く、トランスのようなものではあるのだけど。」
いつも思うけどお気に入りの音楽を選ぶのはとても難しいことだよね。
– あなたの音楽的なバックグラウンドに興味があるのですが、幼い頃はどのような音楽を聴いて育ちましたか?
Grand Salvo 「僕は父親はいつもThe DublinersやFuriesなどのアイリッシュフォークを流していたよ。John Denverも良く聴いていたし、Gary Sheartonの”Springtime it brings on the shearing”には感動した。母親はショパンやベートーベン、エルビスなんかを良く聴いていたと思う。ベートーベンの有名なソナタのピアノフレーズは一番記憶に残っているよ。
僕が最初に選んだレコードはそのジャケットがよかったからだった。The People Down The Laneの”Have You Any Wool“だ。Richard GillによるOrffの学校教育に適したアレンジをなされた童謡集さ。とてもおかしな雰囲気で忘れられないんだ。僕を捉えて興味をそそった、紛れもない音楽的なインスピレーションだよ。」
– あなたは以前には折坂悠太などのミュージシャンと共演し、日本でもたくさんのツアーを行われていますね。日本でのお気に入りのミュージシャンについて教えていただけますか?
Grand Salvo 「これまでたくさんの日本のミュージシャンと共演することができたよ。例えばEddie Marcomやテニスコーツ、キセルやたゆたうなどのミュージシャン達だ。
最近はFlauというレーベルからリリースしているNoahやCicadaがお気に入りだね、いつも彼らは素晴らしい音楽を届けているよ。あと、最近友人であり、今回の東京のツアーでパーカッションとして同じステージにたつJoe Taliaから石橋英子の音楽は素晴らしい。彼らはデュオとしても活動しているね。
彼女も非常に強いコンセプトを作品に作り上げているから、同じカテゴリーのアーティストだと思える。渚にては昔から好きで、確か90年代に初めて聴いた日本の音楽だった気がするよ。
ここのところは細野晴臣をたくさん聴いているし、特にナウシカのオープニングで王蟲が暴走するシーンの音楽は4年以上聴き続けているよ。いつも思うけどお気に入りの音楽を選ぶのはとても難しいことだよね。」
僕がやりたいことが詰まった種のような曲であり、アルバムに収録される残りの曲もその種を中心に形取られていくんだ。
– あなたの音楽を聴いていると、ストーリーが立ち上がり、人々が映画の中で演じているような感覚を覚えます。昔見た映画を思い出させるような感覚です。そんな重厚なコンセプトはどのように構成されるのでしょうか。
Grand Salvo 「それは嬉しいね、時にはアイデア自体は少し抽象的になってしまうから、ある1曲が仕上がってから、それに合う適切な物語を作り上げていくことから始める必要があるんだ。僕がやりたいことが詰まった種のような曲であり、アルバムに収録される残りの曲もその種を中心に形取られていくんだ。そのほかのパターンだと、物語がどのように閉じられていくのかわかっていて、それはどんなことが怒るのか、ストーリーがどのように開かれていくか見出すことに尽きるんだ。でもこのやり方は難しくって、ストーリーを語ることと、音楽を形作ることは同様な思考を持って扱う必要があるんだよね。」
来日情報
詩的で壮大な音楽を触れることができるGrand Salvoの来日ツアーの日程は以下の通り。ぜひお近くのライブ会場に足を運んでみてほしい。
10月8日 京都 きんせ旅館 – With YeYe / たゆたう
10月11日 神戸 旧グッゲンハイム邸 – With Sumahama? / もだえ / 落花生
10月13日 下北沢 lete (Solo Show)
10月14日 蔵前 七針 – With Muffin / 池間由布子