最近ヴェイパーウェーブという音楽ジャンルの名前を聴くことが増えた気がする。
ヴェイパーウェーブとは2010年代前半にインターネット上で生まれた音楽的ムーブメントであり、多くの曲は80~90年代のポップソングなどをサンプリングして作られる。脱構築的で、徹底的に無意味。言葉の意味なんてないし、音楽の形を成しているのかも怪しい事もありながら、チープなポップソングの「ノスタルジー」を感じる。
例えばヴェイパーウェーブを代表するMacintoshプラスの”リサフランク420 / 現代のコンピュー“なんかは有名だ。ダイアナ・ロスの”It’s Your Move“をサンプリングしたり、ダウンピッチして1ループで展開していくノスタルジーったらない。
ヴェイパーウェーブでは、タイトルやアーティスト名に意味不明な日本語が多用されるけれど、ムーブメントの主流は日本ではなかった。猫 シ Corp.というアーティストがいるけれど、彼はオランダ人だ。
しかし、最近ヴェイパーウェーブの「ど真ん中」をいくわけではないけれど、そのノスタルジーとメロウさをポップに消火して音楽を作っているバンドを発見した。
The mellowsだ。
The mellows
大阪出身の5人組バンドであるThe mellows。先日リリースされた”Take Me Out Of This World EP“のリードトラックである”Plastic Time“のPVからもヴェイパーウェーブを感じる。(ヴェイパーウェーブではしばしば日本のアニメ動画や音声がサンプリングされる。)
インスタグラムではアートワークが投稿されている。意味のない日本語とチープでポップなアートワークがめっちゃヴェイパーウェーブ。
ツイッターなどの公式プロフィールでは”Hi,we are mellows japanese psyche pop music”とある。確かにサイケデリックでポップ、そしてノスタルジックな音楽を作っている。ヴェイパーウェーブではないのだけど、ニュアンスとしては間違いなく感じられる。
サイケデリックな浮遊感を感じさせる曲調と音が気持ちいい。ちょっとエモーショナルな夜とか、しとしと雨が降る日にぼんやり聴いていたい心地よさとエモさがあるのだ。
“Plastic Love”というタイトルからしても、世界的なAOR・シティーポップの流行の中心にいる竹内まりやの”Plastic Love”を思い出さざるを得ない。
構築されたヴェイパーウェーブと呼びたい
僕はThe mellowsが作る音楽は「構築されたヴェイパーウェーブ」だと感じる。
ヴェイパーウェーブは脱構築的といったが、基本的には1ループで展開という展開がない。僕らがよく知る「曲」として構成されていないことが多い。
もし、ヴェイパーウェーブ的な音楽をロックやポップの方法論で作り上げるならThe mellowsのような「ノスタルジーでメロウ」な音楽が出来上がるのだと僕は思う。
イントロ・Aメロ・サビ…としっかり構成があるし、歌メロもとっつきやすい。ボーカルは耳に残るキュートで透き通っているのだけど、聴いているとなんとなく不安になる(いい意味で)。それこそ80~90年代のアイドルのボーカルなんかが頭に浮かんでくる。
一方で歌詞は意味があるようで、実は言葉遊び的に並べただけなんじゃないかなと思う。この辺りの「意味のありそうな無意味」が表現されているのなら、それこそヴェイパーのそれだ。
サイケデリックでノスタルジーを感じる要素はAriel Pink、緩さを感じるメロディーや楽器隊の演奏はマックデマルコのニュアンスを感じるとも言えるのだけど、ヴェイパーウェーブの影響は根底にあるんじゃないかなと感じる。
良い、圧倒的に良い
とにかく僕が言いたいことは「めちゃくちゃ良いからみんな聴いてよ」ということ。
もしかすると、日本国内よりも海外で先に発見される事もあるんじゃないかと思うぐらい「今っぽい」バンドだ。
シーンのど真ん中に立って欲しい気持ちもあるし、少し外側でノスタルジックでヴェイパーウェーブなニュアンスを保ちながら活動していて欲しいとも思う。
ちょっと感傷的な気分なあなたに、ぜひThe mellowsを。以下のリンクからぜひ全曲聴いてみて欲しい。