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過去と向き合い、未来へ向かう。Tame Impala “Lost In Yesterday” トラックレビュー

Tame Impala – Lost in Yesterday (Official Video)

 

オーストラリアを代表するサイケデリックロックバンドであるTame Impalaの新曲”Lost In Yesterday”が公開されている。”Lost In Yesterday“は約5年ぶりにリリースされるニューアルバム”The Slow Rush“に収録される予定だ。

Tame Impalaの中心人物Kevin Parkerはインタビューで「時の流れ」がテーマであると語っている。

He added: “A lot of the songs carry this idea of time passing, of seeing your life flash before your eyes, being able to see clearly your life from this point onwards. I’m being swept by this notion of time passing. There’s something really intoxicating about it.”

「The Slow Rushに収録される多くの曲は”時の流れ”を表現しているんだ。自分の目で今後の人生をはっきりと捉えることができるかと思えば、人生があっという間に過ぎ去っていくような。僕はこの「時の流れ」というアイデアに魅了されたよ。そこには僕を夢中にさせてくれる何かがあるんだ。」

New York Times

アルバムがリリースされる2月14日になってみないとわからないが、”Lost In Yesterday“は「時の流れ」を最も鮮明に、リアルに表現している曲かもしれない。曲名に”Yesterday”という過去を表す単語が入っているからかもしれない。が、確実に「過ぎていく時と過去の思い出にどう向き合い、乗り越えてくか」というテーマが見え隠れしている。

The Slow Rush“のコンセプトを理解し、楽曲とメッセージを深く楽しむためには”Lost In Yesterday“が伝えたいことを頭に置いておくことが必要だ。本記事ではKevin Parkerが書いたリリックとMV、そしてトラックから僕らが何を知るべきか考えていきたい。

過去と向き合い、乗り越える

Lost In Yesterday“で歌われていることは「過去の忘れたいような辛い思い出を乗り越え、未来へ目を向ける」ということだと僕は考える。

象徴的な歌詞がこちら。過去ひどく辛い思い出すら、最終的には良い思い出として捉えることができる、ということを語る歌詞である。

”Eventually, terrible memories turn into great ones”

「ひどい思い出もいつかは素晴らしいものに変わっていく」

過去ある経験をした時点ではもう二度と味わいたくない辛いことだったかもしれないが、時を経て思い返す時には「今思えば良い思い出だったのかもしれない」と捉え直すことができる。思い出自体が固定的な意味を持つわけではなく、全くもって恣意的であるということだと僕は思う。

サビ前で歌われる歌詞もきっと思い出がもつ恣意性を歌っているのだ。心が暖かになるような思い出が頭によぎる時は、その思いを反芻して抱きしめるように大事に扱うべきだ。逆に、あなたを思考の負のループに止めようとする辛くひどい側面が現れたら、あなたは思い出の一部を消してしまう覚悟を持たなくてはならない。

“‘Cause if they call you, embrace them”

「だから思い出が君を呼ぶなら抱きしめてやればいい」

“If they stall you, erase them”

「もし君を引き留めようとするなら、消してしまえばいい」

思い出が持つ「辛く厳しい部分」だけを切り取って思い返しているうちに、思考が負のループにハマることがあるだろう。「なんであの時××しなかったんだろう」という思いが頭の中を駆け巡ってぐるぐる回り続けるようなあのネガティブな思考だ。でもいつかは思い出の辛かった側面が生み出す負のループから抜け出さなくちゃいけない。

それが以下に歌われている。『恋はデ・ジャブ』は1993年にアメリカ映画で、主人公が同じ日を繰り返し生きながらストーリーが進行する。僕はこの映画が「負のループ」を表現する引用だと考える。

“And you’re gonna have to let it go someday”

「そして君は手放さなきゃならなくなるんだ」

“You’ve been pickin’ it up like Groundhog Day”

「『恋はデ・ジャブ』みたいに拾い集めていたけど」

人生の中で経験することはあくまでランダムであり、偶然の産物である。だから一つ一つの物事に固定された意味なんてないんだということが“Snakes and Ladders”で表現されている。“Snakes and Ladders”は昔からヨーロッパで楽しまれているシンプルなボードゲームだ。サイコロを振って、出た目に合わせてマスを進めていくすごろくに近い。あくまで運がいいかどうかが試されるゲームであり、そこに必勝法や強くなる秘訣はない。

人生もつまるところ“Snakes and Ladders”のようなランダムな偶然の集合体であるということなのだろう。

I know it’s mad, I understand

狂っていることは知っている わかっている

It’s only Snakes and Ladders

単なる「蛇とはしご」に過ぎないんだよ

さらに曲が終わる間際には以下のように続いていく。

 “And if it calls you, embrace it”

「そして思い出が君を呼ぶなら抱きしめてやればいい」

“If it holds you, erase it”

「もし君を掴んで離さないようなら、消してしまえばいい」

“Replace it”

「塗り替えるんだ」

“Replace It”塗り替えるんだ」という一節で締めくくられている。辛くてネガティブな感情が潜んであなたが前進することを阻む思い出に向き合い、受け入れた後に振り返る時にいつしか素晴らしい思い出に変わっていく。その思い出の上書きを”Replace It”という一言に込めているのだと僕は思う。

MVとサウンド面の「ループ」

MVは結婚式が舞台。St.VincentなどのMVを手掛けてるクリエイティブ・ユニットTerri Timelyが監督した。Kevin Parkerが結婚式の余興で歌うバンドに扮して、カメラがワンカットで円を描くようにまわりながら結婚式に出席する客を写しつける。同じ結婚式が繰り返されているようで、客の服装や立ち振る舞いが微妙に変わっていく。

初めは客の人である男がドリンクをテーブルからとって自分で注ぐシーンから始まる。が、2周目になればギャルソンの男が客の女性にドリンクを注ぐ。赤ん坊がいるのに客がタバコをふかしていると思うと、徐々に数が減って、誰もタバコを吸わなくなる。

最初は赤ちゃん抱えながらタバコを吸っている

時が経つとタバコからお酒になる

負のループを表しながらも、徐々に好転し最後には劇的な結末で終える部分に「辛い思い出も繰り返し向き合うに連れてポジティブに捉えられるようになるが、いつまでも思い出に留まってはいけない。いつかは自分で終わらせなければならない」という意味が込められていると僕は思う。

曲自体の構成にもループが見える。ベースのリフが特徴的で、ほぼ全編を通して同じフレーズが執拗に繰り返されている。Kevin Parker自身がディスコ的なサウンドにも影響を受けたのか、四つ打ちにベースリフがこの曲を支えている。深読みのし過ぎかもしれないが、ここにもループが見える。

過去に向き合い、過去を受け入れ、自ら前に向かう

Kevin Parkerが「時の流れ」をテーマとしたアルバム“The Slow Rush”“Lost In Yesterday”はその中でも「過去を乗り越え、未来にむかう」ことが歌われた曲だ。同アルバムに収録予定である“It Might Be Time”でも時間の経過と向き合わなければならないことを歌っている。

過去をよりよく捉えて、負の感情や思い出を清算し未来に向かうことが僕らには必要だ。新しいアルバムを聴いて、Kevin Parkerが語る声に耳を澄ませよう。

”It Might Be Time”については別の記事にまとめている。ぜひ読んでみてほしい。

【トラックレビュー】Tame Impala “It Might Be Time”
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