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レコードを作るハードルを極力下げるサービス Qrates(クレイツ)

クラウドファンディング」という言葉が徐々に市民権を得始めているなぁと最近感じる。KickstarterやCampfire、makuakeなど様々なプラットフォームが生まれている。

ファッションや音楽、アートにフォーカスしたものまで、徐々にその知名度やカバーする幅が広がり、特にITやWEB業界に身を置かない僕ですら頻繁に目にするようになった。

僕は音楽ブロガーだから、やっぱり「音楽のクラウドファンディング」に興味がある。アルバムのリリースやライブ・フェスの開催に当たってクラウドファンディングで出資を募る、みたいなことがよく行われているのかなぁ、なんてぼんやり考えていた。

しかし、もっとピンポイントで、ニッチで、でも今の時代を感じる「音楽にまつわるクラウドファンディングプラットフォーム」を見つけてしまった。

それがQrates(クレイツ)である。クラウドファンディングのシステムを利用して、100枚からレコードの受注・生産・流通を行うことができるサービスだ。しかも実はQratesを運営している企業は日本発。とても興味をそそられたので、ぜひそのサービスを使ってできることなどをまとめていきたい。

Qrates(クレイツ)とは?


PHOTO VIA QRATES

Qrates(クレイツ)とは日本発のオンラインオンデマンドヴァイナル・サービスである。

レコードを作る際にどうしても発生する在庫リスクや損益などネガティブな要素を取り除き、音源をアナログレコードに落とし込むためのプラットフォームだ。2015年にローンチされてから、243作・6万2000枚以上のリリースに携わってきた。1年80枚ほど。なかなかの数だ。

え?でもレコードなんか買う人いるの?SpotifyとかApple Musicあるやん」と思う人も多いはずだ。もちろんサブスクリプションサービスのユーザー数は右肩上がりだが、レコードの売り上げも伸び続けている。

Spotifyのユーザー数とレコードの売上の伸び

昨今、サブスクリプション型の音楽配信サービスがますます主流になりつつある。2010年には全世界で1000万人のユーザー数だったSpotifyは、2018年現在では8300万人のユーザを抱えている。「え?そんなにいるの?」とびっくりした。

参考 Number of Paying Spotify SubscribersStatistic

一方で、デジタル化の流れの反対を行くように、レコードの売り上げもますます上昇している。2017年には年間1430万枚のレコードが売れている。

Infographic: The Surprising Comeback of Vinyl Records | Statista You will find more infographics at Statista
 

デジタル化が進むにつれて、フィジカルに所有することがなくなりつつある。だから尚更、目に見える「モノ」して手元に置きたくなる「所有欲」や「コレクター熱」を刺激するだろうか。

VULFPECKも使っているサービス

Qratesは日本の企業であるトウキョウ・デジタルミュージック・シンジケイツが運営している。

僕も「知らない会社だなぁ・・・」と思っていたけれど、音楽メディアであるFNMNL(フェノメナル)を運営していると聞いてピンときた。音楽・カルチャー好きならきっとチェックしている人も多いだろう。

参考 FNMNLフェノメナル

Qratesは日本のサービスでありながら、主に欧州を中心としてサービスが利用されている。例えばアメリカのミニマルファンクバンドであるVULFPECKがニューアルバム”Hill Climber“をQratesを使ってリリースする。(ちなみに過去のアルバムのレコードは全てQratesを使ってリリースされている)


PHOTO VIA QRATES

オーストラリアのサイケロックバンドであるKing Gizzard & The Lizard Wizard(キングギザードアンドザリザードウィザード)もQratesを使ったレコードリリースを行なっている。


PHOTO VIA QRATES

このように、アマチュアだけでなく全世界的に名前が知られているようなバンドまで利用する「レコードリリースに特化したクラウドファンディング・プラットフォーム」なのである。

100枚から作成可能

このQratesの魅力は低コストで「ミニマムロット100枚から作成が可能」だという点。

最低限のオプションを選べば15万円ぐらいで100枚のレコードを作れてしまう。

 


PHOTO VIA QRATES

日本のレコードプレスを扱う唯一の会社、東洋化成で作ると20万以上かかってくる。(かなり最低限の条件で見積もりを出したので、実際はもっと費用がかさむはずだ)


PHOTO VIA 東洋化成

事前にクラウドファンディングとしてファンからオーダーを取った上で生産を進めることができるので、Qratesのサービスを活用すれば小さなバンドでもリリースすることも可能だ。

金額や在庫のリスクをとることができる大きなバンドであれば東洋化成を使うことも可能だろう。しかし知名度のないアーティストにはマスタリングやジャケットなどの費用、在庫リスクが重くのしかかり気軽にリリースなんてできない。

でもQratesを使えば、何者でもない僕だって何曲か作ってしまえば、Qratesを使えばレコードをリリースすることができてしまう。

マスタリングはアビーロードスタジオ!


PHOTO VIA QRATES

音質のクオリティー面だって万全の体制だ。ビートルズがレコーディングを行ったことで有名な「アビーロードスタジオ」が担当する。

調べていて一番びっくりしたのがこの事実。そりゃVULFPECKも使うよな、と思った。

レコードの作成だけでも使える

プラン次第では「レコードの制作」だけでも利用することができる。


PHOTO VIA QRATES

プロジェクトスタートと同時にレコードの製造をスタートさせる「プレオーダー」プランや、完全受注生産の「クラウドファンディング」プランと、選択の幅が広い。

流通だってやってくれる

作るだけじゃ終わらない。作ったレコードは、提携している100以上のレコードショップにもオファーできる。日本ならJET SETHMVTECHNIQUEまである。


PHOTO VIA QRATES

クラウドファンディングを通じて製造したレコードが、話題になり「うちでも売りたい!」と思ったレコード屋にもすぐに卸す事ができるシステムだ。

実績がなくともレコードを作れる

プライスの面でも、レコード製造のかなりハードルが下がる上に、その後のサポートも手厚い印象を持った。

たいていの場合、CDが安定して売れる実績のあるアルバムが5年越しにレコードとしてリリースされる、という流れが一般的だったかと思う。レコード出すには実績が必要な時代が続いていた。

しかし市場の盛り上がりと、Qratesの登場でレコードをリリースするハードルが下がりつつある。

若手バンドでも「レコードを作りたい!」と思えば、作れてしまう。「限定100枚!ライブ会場限定販売!」なんていえば、ある程度のファンがついているバンドだと結構売れるんじゃないかな。

SNSを通じて告知して発信したり、クラウドファンデングを行いながらファンの受注を得たりすることでいいマーケティングツールにもなりうる。

爆発的な盛り上がりはないかもしれないけれど、レコード収集家が消え去ることは当分ないだろう。つまりリリースしたいアーティストだって存在し続けるはずだ。

僕は単なるブロガーに過ぎないのだけれど、ぜひ「レコードを出したいけど、費用と在庫のリスクを取れない・・・どうしよう」と思っているバンドはぜひチェックしてみてほしい。

参考 QRATESQRATES