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「線」で聴くアルバム。ARCTIC MONKEYS "TRANQUILITY BASE HOTEL AND CASINO" レビュー

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引用元 http://www.indienative.com/2018/04/tranquility-base-hotel-casino

 

現代に存在するロックバンドの行く末を占う上で、もっとも重要なバンドであるARCTIC MONKEYS(アークティックモンキーズ)のニューアルバム"TRANQUILITY BASE HOTEL AND CASINO"(トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ)が5月11日にリリースされた。

 

ついにメインストリームまで自らを持ち上げた前作の"AM"から約4年半、リリースされた新譜は、明らかに今までのアークティックモンキーから様変わりしている。

 

こちらがイギリスの名門インディーレーベル"DOMINO RECORDS"と契約して間もない頃のアークティックモンキーズ。もしまだあまりアークティックモンキーズについて知らない人は、この先を読み進めるに当たって、過去リリースされた名曲"I Bet You Look Good On The Dancefloor"を一度聞いておいて欲しい。

 

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2002年にイギリスはシェフィールドで結成されたアークティックモンキーズは、ヘビーなギターサウンドと、一度聴くと忘れられない印象的なフレーズを武器にインディーバンドとして活躍して来た。

そしてそのギターロックの集大成として"AM"がリリースされた。もちろんその時点でビッグなバンドではあったものの、AMのリリースとともにワールドクラスのロックバンドに進化したのだった。

 

そして今作の"TRANQUILITY BASE HOTEL AND CASINO"では、それまで培ったバンドの"ギターをかき鳴らして来たロックバンド"としての認知をいい意味で「裏切って」いる。リリースされてまだ1週間も経っていないけれど、アルバム5周ぐらい聴いてみたぐらいかっこいいアルバムだ。

きっと5年後、10年後、もっと先のことになるかもしれないが「2010年代のロックバンドがリリースしたアルバムで最も重要なアルバム」として振り返られるはずだ。

 

僕がこの"TRANQUILITY BASE HOTEL AND CASINO"がクールだと思った点、今の時代にマッチした音楽が聞きたい人にオススメしたい理由を語っていく。

 

 

自分たちのスタイルを180度変換した

 

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TRANQUILITY BASE(日本語では「静かの基地」)とはアポロ11号が初めて月に着陸した場所の名前。月にある架空のホテルとカジノをイメージされて作られたヴィジュアルと、収録されている楽曲もどこか「月」「宇宙」をイメージさせる静けさが漂っている。

 

何よりこのアルバムについて言いたいことはそれまでアークティックモンキーズを構成していたヘビーなギターリフが見当たらないことだ。

そしてギターボーカルであるアレックス・ターナーは、LAの自宅でほとんど一人で曲を書き上げ、さらにはピアノで作曲を行なっている。

 

ギターは僕にアイディアをもたらす能力を失ってしまったんだ。ギターを手に座ると毎回、どうなっていくのか懐疑的になってしまってね。ピアノの前に座ると、自分が思ってるのとはまったく正反対なんだけど、こうなるかもしれないっていうすごく良いアイディアが得られたんだ

アークティック・モンキーズのアレックス、新作でピアノで曲を書いた理由を語る

 

 

言い換えれば「それまで築き上げて来たアイデンティティをすっぽり入れ替えてしまった」ようなもの。

例えば、人気ブロガーが「ファッション」を得意として数字と人気を築いて来たのに、急に「盆栽」について平気な顔して書き始めたような方向転換だ。

 

ライブで演奏して会場を盛り上げるタイプの曲は1曲もない。今までは必ずキラーチューンとなる曲が含まれていたが、今までのスタイルを一度脱ぎ捨てたのだ。アルバムの幕開けである"STAR TREATMENT"の一節からも感じ取ることができる。

 

"I just wanted to be one of the Strokes, now look at the mess you made me make"

「俺はストロークスの一員になりたかっただけなのに、今じゃこのザマ」

 

アレックス・ターナー自身の世界観が色濃く出ている

 

TRANQUILITY BASE HOTEL AND CASINOアレックス・ターナーが一人で作りあげた「コンセプト・アルバム」であることは間違いない。

どの楽器も控えめに、曲全体を支える骨組みに徹している。全体のバランス、調和を最優先しているよう。そして鳴る音の中で最もフィーチャーされているのがアレックス・ターナーの「歌」だ。囁くような、深くセクシーなボーカルワーク。その脆そうな耽美的な世界観をしたから支えるように、曲全体が土台となっているような印象をうける。

 

2曲目の"One Poing Perspective"はピアノから始めりミニマルな楽器構成で曲が進む。

アルバムのタイトルともなった4曲目"TRANQUILITY BASE HOTEL AND CASINO"は囁くようなファルセットが聴いたセクシーな歌が心地いい。宇宙船から月を見ながら酒でも飲みたくなる。

この曲が一番歌にフォーカスされた曲だ!という作品でもない。全ての曲が歌を聴かせることに力を注いでいる。

 

さらにアレックスが、盟友であるミュージシャンのMiles Kane(マイルズ・ケイン)とのユニットであるThe Last Shadow Puppets(ザ ラストシャドウパペッツ)で培った西洋的な美的感覚が生かされている。

 

TRANQUILITY BASE HOTEL AND CASINOを聴いた時、まず最初にこちらのMilacle Alignerを思い出した。わざとらしいぐらいのナルシスト的な音楽。

 

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このように、アレックスの個人的な思考が色濃く反映されたアルバムだ。 特に「歌」にフォーカスしている。しかしだからと言って単なる「歌もの」というわけでもない。全体の調和こそに真価があると、僕は思う。

 

「点」ではなく「線」で聴くアルバム

 

今までのアルバムにはライブで観客全員が無条件に騒ぎ出す「アンセム」的な曲が散りばめられていた。そう言った曲が「点」としてアルバムに収録されており、他の曲よりも一段と目立っていたのだ。

個人的な印象ではあるが、今までのアルバムでは「あんまりこの曲は聞かないなぁ・・・」という曲が結構あった。ピンポイントで目立つリード曲にどうしても耳が行きがちだったということだ。

例えばセカンドアルバムである"Favorite Worth Nightmare"では"Brianstorm"がそうしても頭によぎってしまう、最強のキラーチューンだと思う。

 

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しかし今作は違う。ひときわ目立つ「点」となる曲があるわけではない。しかし、それぞれの曲を聴いていると、アルバム自体が「線」であることに気がつく。わかりやすく「ノレる曲」はない。けれど、一つ一つがアルバムの世界観を忠実に守っている。

"GOLDEN TRUNK"などファジーなギターリフがある曲あったりするものの、ピアノを主軸とした、深く囁くような歌と、それを引き立てる美しい曲の組み合わせが印象的。そして全ての曲が架空のホテルである"TRANQUILITY BASE HOTEL"をイメージしたコンセプトアルバムを作り上げる不可欠な要素だ。

 

ストリーミングやサブスクリプションが主流となり、アルバム全体を通して音楽を聴くことが少なくなったが、このアルバムに関しては1曲目から順番に聴いていたい。

曲単位で語るアルバムではない。今時珍しい全体の「総合力」が非常に高いアルバムだ。

 

最後に

 

2018年最も話題になったアルバムとして、年末しみじみ感じることになるだろう。

正直、今までの「アークティックモンキー像」を守ることを求めたファンにとっては少し残念なアルバムだったかもしれない。

しかし、10年以上かけて作り上げた「大物インディーバンド」のポジションを一度捨てて、新たな境地にチャレンジする姿勢は簡単に真似できることではない。

 

しかもセールスとしても結果も出ている。

 

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ロックバンドとしては異例中の異例。ヒップポップやR&Bが強い中「単なるロックバンド」では終わらず貪欲に新たなチャレンジを取り入れたことで、さらに一回りスケールを大きくした。

 

そんな「最重要バンド」であるアークティックモンキーズの新譜"TRANQUILITY BASE HOTEL AND CASINO"をぜひチェックして見てほしい。

 

リリースを記念して、東京をはじめとした世界6都市でポップアップショップもオープンしていた。その様子も記事にまとめたので、よければこちらも読んでみてほしい。